アディプー

夜、ほえほえと残業していると、携帯が鳴った。
普段からお世話になっている方からのお誘い。
ええい、ままよ!と飲みに行くことにする。


教えられた店をウェブで探してたどり着くと、上海人のゲストがいた。
一番愛する液体(生ビール)を飲みながら、私が北京に行った時の話を
していると、中国語で続きを話してみなさいと言われた。


あれは大学2年の春休み。
滞在していた北京大学の寮から、露店に買い物に出かけた時の話。
その露店では、アディダスのパーカーを売っていた。もちろん破格の値段。
そのパーカーの品定めをしていると、そのパーカーは実はリバーシブルで、
裏返すとプーマになることが分かった。


す、すげえ!これ欲しい!


私達は事前に先生から露店の買い物について軽くレクチャーを受けていた。
「最初は言い値の半額以下からスタートしなさい。でも、多分相手にされない。
そしたら『じゃ、いいわ〜』って感じでその場を離れなさい。
相手が『ちょい待ち!』と引き止めたら脈あり。そこから交渉開始よ。
言い値の6割をめざしてがんばりなさい」


その通りにしてみたら、引き止められた。交渉開始。


「あのさ、もうちょっと安くしてよ」
「無理ー」
「だってそれ本物じゃないじゃん」
「そんなこと分かってる」
「分かってるんだったら安くしてよ」
アディダスとプーマだからあったかいんだよ。買わないの?」
「えー、でもなー」


「あんた、今日はアディダス、明日はプーマだよ!」


ま、まいりました!おそるべし中国人!
でもその後ちょっと粘って、結局言い値の6割くらいで購入できた。
で、そのパーカーには「アディプ―」という名前がつけられた。


という話をがんばってやったら、なんとか通じますた。
恐らく詳細は伝わらなかったと思われるが…。やってみるもんだなあ。
中国の人がpumaを「ピューマ」と発音することを知らなかったので、
実はそこが一番難しかった。「布(pu) ma」と言ってると思われたみたい。
maはどれだ?


中国語忘れすぎ。覚えている単語も声調が怪しい。もったいない。
でも、後で気づいたことがある。
通じない時には、自然に他の言葉で言い換えていたこと。
声調を間違っていると気づいたら、残った三声をすべて試していたこと。
話し終わった後に変な汗をかいていなかったこと。
何より、話していて恥ずかしくなかったこと。
私はヘタレなので、こんな簡単なことがいつもできずにいたんだよな。
これはここ半年間の訓練のおかげなのかな。中国語の訓練ではないけど。


あのアディプ―どこ行っちゃったんだろ?