小さかった頃の話。

月夜に外を歩いている時、どんなに歩いても歩いても、
月が自分から遠く離れていかないのが不思議だった。
不思議というよりも、いつまでもどこまでも月が自分を
追いかけてくることに、軽い恐怖すら覚えた。
月から逃げたくてたまらなくなることがあった。


そういうことがあったせいか、だいぶ大きくなるまで、
月のクレーターがウサギに見えなかった。
あんな不気味な星の上で、ウサギが餅つきやってるだなんて、
どうしても思えなかったな。