ほんまもん

今日、初めて会った人の話。
彼女は以前ある都市で、服飾系専門学校の講師をしていた。


「とりあえず」学校に通っていた若者がたくさんいて、彼らはもれなく
この上なくタラタラしていたらしい。
ニートとかいう言葉が流行るずっと前の話だ。


「やばい、こいつらこのままだとちゃんと就職もしないし、
間違いなく税金も年金も払うような大人にならない。
これはなんとかしなくちゃいけない」


そう思った彼女は、当時近くで行われていたある神社の大改修に目を向けた。
これを彼らに見せれば、何かが変わるかもしれない。彼女は手紙を書いた。
「大改修の現場を彼らに見せてください」


当初は取り付く島もなかったらしいが、彼女はあきらめなかった。
何度も何度も手紙を書いた。
すると、ある日その手紙が大宮司の目に止まったらしい。
「なんだ、そんなこと。いつでも彼らを連れていらっしゃい」
(やっぱトップを捕まえるのが何でも話が早い。)


彼女は学生達を引き連れて現場へ。
彼らはいつものようにダラーっとした格好で現れた。
でも、現場のそこかしらで宮大工や漆職人が作業をする姿、
宮司自らがヘルメットを被ってハンドマイクで説明する姿、
そして、NHKのカメラすら入れなかった「本物」の現場にいる自分に触れ、
少しずつ彼らの様子が変わっていった。


見学が終わり、彼女は彼らに「どうだった?」と聞いた。
「えー、感動したー」「感動」「すげー」
分かってるのか分かってないか良く分からない反応をする彼らに
彼女はさらに問うた。


「ね、じゃあ今のこの工事って誰がお金出してると思う?」
「えー、国とか?」「県?」「市?」
「まあ、どこでもいいんだけどそんなとこだよ(ほんとは国)。
でもさあ、それって元々はどういうお金?」
「あ、税金??」
「そう。もし君達が大人になってちゃんと働いて税金払わなかったら?」
「あ、こういう工事ってできないわけー?」
「そういうこと」


彼らは劇的に変わったわけじゃないけど、次の日から時間を守るようになった。
ちゃんとした格好で学校に来るようになった。授業を聞くようになった。
「とりあえず大人の言うことを聞いてみようかな」
という姿勢を見せるようになった。


「本物って、すごいよね。人を変えちゃうんだもん」
そういって微笑む彼女は本当にステキだった。


「本物」と「体験」。
ちょっと考えることがあるんだけど、長くなったのでまた今度。