芸術って

昨日三浦雅士氏が言っていた。
「今、『美術品』と言われているものは、ここ100年間で『美術品』になった。
それまでは、生活の中に普通に存在していたもの。
これらは、本当は美術館で『ありがたや〜』って見るためのものじゃないんだよ」


私の亡き祖父は竹細工の職人だった。
いくつか作品が残っているけれど、時が経って飴色になった花瓶なんて
とっても美しくて、たまにじーっと見とれてしまうことがある。
でも、彼が一番良く作っていたのは、生活用品である籠やざるだった。
あたし達は毎日の生活でその籠やざるを普通に使っていた。
子どもの頃はそのことを贅沢だなんてもちろん思わなかったけれど。
彼の作品は、確かにあたし達の生活を豊かにしてくれていたのだ。


ただ、職人と言えば聞こえがいいけれど、別に高名なわけでもなかったし、
私が子どもの頃にも「なんだ今の時代に?そんなかごなんて使わないよ」と
いう風潮が既にあった。


古来からあった舞踊が、盛んになって、その後長い間衰退して。
三浦氏が「ドガは踊り子をかわいそうな人達と思って書いていたんだよ」と
話している時、なんとなく祖父と踊り子が重なった。


数十年前に、三浦氏が舞踊を取り上げようとした時、
「舞踊って、他が全部ダメだった人がやるもんでしょ?」
と言われたそうだ。
ずうっと長い間、舞踊は、美術、音楽などとは別扱い。
芸術の仲間に入れてもらえなかった。
でも、ここ最近のバレエブームやダンスブームと言ったら。


時代の移ろいによって、珍重されたり、軽率に扱われたりする。
芸術って切ないなあ。芸術の産みの親である人間って無責任だなあ。
でも、そんな芸術や人間が好きだなあ。私は。